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2024/04/27 ゴールデンウイーク、なるものが存在するそうでございますね。インタビューで10連休などと答えていらっしゃる方がおられました。いいなぁ。うらやましいなぁ。むしろゴールデンウィークは死にそうに忙しくて休むひま無いですって人にインタビューすればいいのに。でもニュースっていうのは珍しいから報道する価値があるんですよね。ゴールデンウイークは忙しいのが当然。休みっていう人は、きっと珍しいのでござましょう。……うらやましいなぁ。 ..
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ゲームブック以前

リドルストーリー

『謎の物語』
紀田順一郎 編 ちくま文庫 2012/2
「女か虎か」
F・R・ストックトン 紀田順一郎訳
p.29-40



 ゲームブック以前のゲームブック的なものについて、もう少し挙げてみましょう。

 口承を発端とする文芸については、前に書きましたな。

 聖書や古事記、それにさまざまな昔話などでございます。

 それらは語られていくうちに、忘れられたり、付け加えられたり、
あるいは変えられたりすることが、意図のあるなしにかかわらずございます。

 それが、ある書に曰くといった具合に集められるとあたかも
分岐する物語のようになるということですな。
 事典・辞書のたぐいについては書きましたでしょうか?

 参考とする項目が、末尾や巻末、欄外などに示されていて、
それを読み継いでいくと、物語が展開するごとく
読む者を全く違った場所に連れて行ってしまう……。

 それがゲームブック的だと申すのでございます。

 ただし、これらは意図的なものではございませんな。


 というわけで今回は、小説として意図的に作られたもの
「女か虎か」を取り上げてみることにいたしましょう。

 この物語は、ご存じの方も多いのではございませんかな。

 リドルストーリーの代表として知られた作品でございます。

 リドルストーリーと申すのは、
意図的に結末を明らかにせず、読者にゆだねるという形式の物語でございます。

 ただ、結末を明らかにしないというだけでは、
それはもう、ありとあらゆる……とはいかないまでも、
結構な割合のお話がそれに含まれてしまいますよね?

 たとえば、たった二人生き残った主人公たちが、 
難攻不落の敵要塞に向かって歩き出すところでエンドですとか。

 ゾンビを掃討し、家族との再会を喜んでいると、
手前の地中から、腐った腕がヌッと出てきてエンドですとか。
 そんなものまで入れたら、もうキリがございません。

 やはり「リドル」というのですから、答、つまり結末ですが、
どちらなのか、あるいはなんなのか、読者に迷わせる要素がないといけないでしょう。
 今回参考にした『謎の物語』の解説には、日本の作品の代表例として、

 芥川龍之介先生の「藪の中」と、
五味康裕先生の「柳生連也斎」を挙げております。

 これらも、7人の証言者、2人の対決、
どれが正しいのか読者を宙ぶらりんに置くという意味で、
この定義に当てはまりますな。

(もっとも、『謎の物語』掲載の作品には、
 どうなのだろうと思うものもあったような……)


 この、リドルストーリーという分野に挑戦した作品はいくつもございます。
形式の面白さゆえでございましょう、現在も書かれているようでございますな。

 わたくしが読んだものですと、
謎の謎その他の謎』山口雅也(早川書房/2012年8月)などがそれにあたります。



 こうした作品は、今回取り上げる「女か虎か」が嚆矢……

と思ったのでございますが、 それ以前があるそうでございます。

 マーク・トゥエイン先生の『恐ろしき、悲惨きわまる中世のロマンス』がそれ。

この『謎の物語』の最初に掲載されておりますな(大久保保博訳/p.9-28)。
 ただですなぁ、これ。

一読、話題を呼ばなかった理由がわかるというものでございます。
 というのも、最後が打ち明け話のようになっていて、

「一体どのようにすれば彼を(つまり彼女を)
いったいどうすればそこから救い出せるか判らないのだ」

と書かれており、作者が作品を放棄したかにみえるのですな。

 加えて最後には、この作品の再掲の条件なども書いてございますし――。

 要するに、失敗作か中途の作品と見られたのでございましょう。



 さて、前置きはここまでにいたしまして、『女か虎か』でございます。


 半未開の王国。そこでは野蛮な国王によって、とある裁判が実施されていた。
 ある臣民が重大な罪で告発されると、彼は巨大な闘技場に連行される。
 広い空間を隔ててその正面には二つの扉があり、
被告はそのどちらかを開くことが義務づけられている。
 その片方には凶暴な虎が、
もう一方には王が被告にふさわしいと選んだ女性が待っている。
 虎なら男はズタズタにされるだろうし、
女なら無罪を得ると同時に彼女と結婚しなければならない。
 さて、この王国には一人の美丈夫の廷臣がいた。
彼は王の娘と相思相愛の仲となり、そのことが父王に知られてしまった。
 彼はとらえられ、闘技場に送られることになったのだが……。
 彼が開けた扉の先にいたのは、女か虎か?


 あらすじはこんな感じでございます。

 これだけなら単なる当て物に過ぎないのでございますが、
ここでこの話を面白くしているのが、扉の向こうにいる女性の存在でございますな。

 彼女と恋人は、好き合っているのではないかという疑心を、王の娘は抱きます。
時がたつに連れ、その疑心は次第に大きなものになっていき……。

 二つの扉の前に立った男に、一瞬彼女は、右手を指して合図を送ります。

 単純に考えれば、そちらがより安全な女のいる扉なのですが……。

 嫉妬に狂った王女は、
いっそのこと男を虎に食い殺させることを選ぶのではないか……。

扉の向こうは、女か虎か。

その王の娘の考えがどうであろうか二択のまま宙ぶらりんにしておくことで
物語に深みが加わるわけでございます。



 このあたり、ゲームブックなら、簡単ですな。

 この選択肢のその先を、両方ながら書くこともできるわけでございますから。

 でも、それで面白くなるかというと、そうではございませんでしょう。

 書いたところで、女性と結ばれてめでたしめでたしか、
虎に食われてバッドエンドでございますから、
奥行きのある話にはなりそうもございません。
何か付け加わったとしても、蛇足になりそうでございますし。

 まぁ、ゲームブックの場合、ゲームでもあるので、
そういう即物的なところは、ある意味必要ではございますが。


 もう一つ、ゲームブックとの違いは、
主人公が「君」ではないということでございます。

「果たして右手の扉から現れ出たものは、女であったか、それとも虎であったか?」

と、最後の一文がなっておりますように、
主人公の行動ではなく、状況を選ばせているのでございますな。

 これは、ゲームブックとそれ以前を分ける
大きな違いと申してもよろしゅうございましょう。

『君ならどうする食糧問題』のような、国の運命を左右するようなゲームブックでも、
どういう政策をとるかを君が選ぶ、つまり主人公はきみという形式を取っております。


 もちろん、ゲームブックにも状況を選ぶ場面があるものもございますが、
作品の中の限られた部分であり、
またそういう箇所は違和感を感じるものではないでしょうか?
 まぁ、作品についてはそのあたりにしておきましょう。


 ゲームブックのファンなら、この作品を読んで思うことがございましょう。

 もしも自分が作品の主人公だったら、この場面どう切り抜けるか――。
「ウォーロック」誌の「編集部からの挑戦」を楽しみにしていた方なら、
読後すぐに考えていると思います。
 そのあたりは、作者もよーく承知しているようでございまして、

 扉をガンガンたたいたらどうだろう、

 などと考えておりましたら、
分厚い革のカーテンを垂らしてあるので音は伝わらないとのこと。チッ。

 その程度だっら、伝わるんじゃないかと思うのでございますが、
仕方がございませんな。

 実際、この謎に対しては、何人もの方が挑戦したようでございます。

 そのうち、一番妥当と言われる解答が、後のほうに収められております。

「女と虎と」J・モフィット 仁賀克雄訳(p.53-106)。

ネット上でもそのあらすじは読めるかも? しれません。

 この答、わたくしも思いついた……と思うのでございますが、
何か先にこれ読んでいたような気も……。

 まぁ、残酷ではございますが、設問からして正しい答ではございますな。
 ただし、答が正しくともそれが生き残る道であるかどうかは別問題でございまして――。

 この解答編を書いた作者も、その点は見越しておりましたようで、
主人公は、さらに残酷な死刑を与えられることになるのでございます。
 どういうことかと申しますれば、

 カイヨワ『遊びと人間』で申しますところの
「アゴン」「ミミクリ」でございますな。

 ルールだけで考えれば正しいのでございますが、
王様の一存というルール外の要素が、それを上回って存在するため、
「女と虎と」の主人公は運命に負けたというわけでございます。

 つまり、扉を開けて虎が出てきた場合、
王様を満足させる方法で何とかしなければならないということでございます

が、それが難しい……。

 一番いいのは、虎と直接戦って勝つということでございましょうが、
普通勝てませんもの。

 だからこそ成立している話とは申すものの、なかなかの難問ですな。

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