忍者ブログ
2024/05/05 國學院大學博物館を紹介した番組(Bs-12)で、縄文時代の火炎土器について、「土器のガラパゴス化」とおっしゃっておりました。なるほどー。日本人って先史のむかしから、独自の発展をさせることに長けていたのでございますな。
[657] [656] [655] [654] [653] [652] [651] [650] [649] [648] [647]
『N』道尾秀介(集英社/2021/10)エヌ
           
 6つの作品が収められた短編集。
 この本には特徴が2つございます。
 
 一つは天地が逆になっている作品があるということ。
 タイトルの『』は、
おそらくそれを表わしているのでございましょう。
 
 6つの短編すべてが「○○ない~」という題名で
統一されていることから、
英語にすれば「No ○○~」となることも意味しているのかもしれません。
 
 天地を逆にした理由について著者は
「章と章の物理的なつながりをなくすため」と書いております。
 もっと深い意味があるのでは、と勘ぐってしまいますが、
よく分かりませんでした。
 
アイルランドが舞台の「笑わない少女の死」と
「消えない硝子の星」が天地逆になっているのですよねぇ。
 
 ですから地球の反対側で起こった物語が逆なのかな
とも思ったのでございますが、
「名のない毒液と花」の舞台は日本。
 
なのでそういうことでもないのでしょう。
 うーむ、疑問でございます。
 
 疑問は疑問のままにしておきまして、
 
 もう一つの特徴は、
本の最初にそれぞれの短編の冒頭部分が書かれたページがあり、
 その中から選択してどれでも好きな作品から読み進めていい
と作者による指定があることでございます。
 
 選択はそこだけ。
物語の途中で分岐が起こるようなことはございません。
 単に短編の選択だけ、ですな。
 
 オビには
「読む人によって色が変わる物語を作りたいと思いました。
 (中略)物語のかたちは、6×5×4×3×2×1=720通り。
 読者の皆様に自分だけの物語を体験していただければ幸いです」
と書かれております。
 
 最初この惹句を読みましたとき、
 
 720通りなんてはったりもいいところ。
 ゲームブックのように通らなかったパラグラフがあるのならまだしも、
短編自体は変わらないのだから、
それを並べ替えたところで、そう何度も楽しむことができるものではない、と──。
 
 でもこれ、そういうことじゃないのですな。
 
 1人の人が何度も楽しめるものを目的としているのではなくて、
読む人によって印象が変わる、というのでございますから。
 
 確かに、読む順番によってその物語から受ける感じが変わってくる
というのはございましょう。
 
 雑な例でいえば、推理小説のトリックなどが思い浮かびますな。
 古典的な推理小説をまったくのサラの状態で読むのと、
現代の作品でそのトリックが紹介されているのを先に読んでいるのでは、
かなり感覚が異なってまいります。
 
 現実でも、
あるニュースに関して、その裏事情を知って聴くのとそうでないのとでは、
そのイメージは大きく変わってくるなんてこと、ございますよね。
 
 でも720通りは機械的で、ハッタリめいて大げさですよねぇ。
オビの背や表紙側の「あなた自身がつくる720通りの物語」となると、
さらにハッタリめいて聞こえます。
 
 さてところで、
 どこから読んでもいい、読む順番によって読書体験が異なる、
そういう特徴を持つ作品群にするためには、
それぞれの作品が何らかの関連性を持っていなければなりません。
 
 ぜんぜん関係がなかったら、読む順序も関係ないですからな。
 
 そんなわけでこれらの作品に登場するキャラクターは、
あるときは主人公として、あるときは脇役として登場いたします。
意外な一面を見せたり、ぜんぜん違った感じで現われたり……。
 
それがいいのでございますな。
 
ニヤリとさせられたり、フーンとさせられたりいたします。
 
 ただし、
あるキャラクターがすべての作品に関わっているわけではございません。
関わっていると申しましても別の一作くらいでございます。
 それが欠点というわけではなくて、
それぞれの作品に独立性と自由度を与えているのでございますな。
 
 
 蝶が出てくるのは、バタフライ効果と何か関係あるのかも。
偶然と偶然が重なって、
日本とアイルランドの物語が奇跡的につながっているということなのかも?
 
とも思ったのでございますが、
読んだ感じではそこまでのつながりは見いだせませんでした。
 
 ただね。日本の側では花が出てくるのですよね。植物の花ではございませんが──。
 それが、アイルランドの蝶と対比する関係になっているような気がいたします。
  
 気づけば表紙にも蝶と花が描いてございますし──。
(カバーかけて読んでいるので、気づかなかったのです)
 
 アイルランドの蝶が死のイメージ、
日本の「花」が生と申しますか、生きる希望のイメージ。
そんなふうに対比させていることはあきらか、
とまで言っちゃっていいのかな、に受けとれます。
 それが全体を一つにまとめているのでございますな。
 
  
 先ほどは独立性と自由度と申しましたが、
発展させるとすれば、キャラクターをもっと色々な作品に登場させた、
より複雑な物語も期待するところでございます。
  
そのための鳥羽口ともこの作品は取れますな。
作者がそうするかは存じませんが。
 
 
 さて、さてさて、
 
 アドベンチやーゲームの視点から見ますと、
ザッピングや双方向移動型のゲームが、それに近いと申せますが、
それほどでもない部分もございます。
 
 ザッピングにしろ双方向移動にしろゲームでは、
大抵フラグを使って時間軸を管理しております。
 そのため、ある部分によっては、
どちらを先に読むかが必然的に決められてしまうわけですな。
そうでないとゲームが進行いたしません。
 
 もっとも、この小説にしたところで、
1つの作品の中での時間軸は決定しているわけではございますが。
 
 まぁ、ですから、完全に同じではないとはいえ、
こういう形式を取り入れることはできると思うわけでございますよ。
 ある場所でメインを務めたキャラクターが別の場所でも脇役として登場し、
それが意外な一面を見せるというようなことが。
 
 矛盾が起こらないようにしなければなりませんが、
頭に入れておいて良いアイデアだと存じます。
 
  
 最後に一言。
 さきほどカバーをかけて読んでいると書きましたが、
それだとちょっと読みにくいのでご注意を。
 
 いえね、パッと開いたときに、どちらが本当の天地だったか、
言葉を変えて言えばどちらが表紙だったか
一瞬分からなくなるのでございます。

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
鮎川哲也がゲームブックというものを理解し得なかったのもこういう理由じゃないかなあ
この企画についての話を聞いただけだと、

作者は「この順番で読んだときにこの小説群は最大の効果を発揮するはずだ」ということを考える努力を放棄したとしか思えないです。

720通りの組み合わせがあったとしてもまっさらな気持ちで読めるのは1回、と考えたら、

「あり得たかもしれない最高の読書体験」に遭遇できる可能性は720分の1にすぎないのでは、と。

「なんとなく物足りなさを感じたら、それはあなたの読む順番の選択がダメだったせいですね」っていう作者の開き直りを感じます。ゲームブックだったら「即死なんていうつまらない結果になるのは読者の選択が誤っていたせい」だということが前提として読者に共有されているから納得も出来るけど、小説でそれをやるというのはどうかと思います。

「コース料理としての盛り上がりや構成」というものを考えることを放棄して、バイキングに走ったフレンチレストランみたいな感じで、

「それって普通は『安易』っていうのではないか」としか……。
ポール・ブリッツ 2022/01/10(Mon)17:11:18 編集
そういうことではないとおもいますよ
 むしろ作者としては、それぞれの作品を同値に置きたかったのだと思います。
 目次のあとに、ホラティウスの引用がございます。
「なぜ笑う? 名前を変えればこの物語はあなたのことなのに」
 つまり一つ一つの作品が、貌を変えたあなたの物語として同じなのですな。
 だから順序はつけない。つけられない。どれから先に読んでもいい。そういうことでございましょう。
 
 その上で、この作品集では、ある作品に別の作品の主人公が登場いたします。
 あの作品でこんなことをやっていた人が、実はこんな人物だったんだ。
 主人公として登場した作品、脇として登場した作品、どちらを先に読むかで印象は変わります。それが作者の企みでございますな。
 それを構成してしまったら、どちらか一方のとらえ方しかできなくて、つまらないではございませんか。
 それに両方の物語を読み終えたとき、読者は想像しますよね。
 もう一方の物語をもし先に読んでいたら、この話はどういう印象だったのだろう──と。
 そこまで含めての楽しみが、作者が順番を決めないことの意味なのだと存じます。
オビに書かれた「あなた自身がつくる720通りの物語」とか「読む順番で、世界が変わる」は、宣伝文句としても誇大だとは思いますが──。
 コース料理もいいですが、小皿料理もいいものでございますよ。
道化の真実 2022/01/12(Wed)09:37:28 編集
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
道化の真実
性別:
男性
趣味:
ゲームブック
最新CM
[11/01 道化の真実]
[10/26 ポール・ブリッツ]
[06/01 道化の真実]
[05/29 ポール・ブリッツ]
[05/06 道化の真実]
最新TB
ブログ内検索
バーコード
P R
フリーエリア
<
忍者ブログ [PR]