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2025/11/19 宇野千代先生は「谷崎潤一郎は、自分で書いたもののほかは、決して読まない、という話を聞いたことがある」そうでございます(『生きて行く私』p.197)。でも、海外作品や源氏物語の翻訳をしていらっしゃるのでございますから、まったくということはございませんよね。まぁ、同時代の作家の作品は、ということなのでございましょう。
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『生きていく私』宇野千代:著生きて行く私
角川文庫(平成8年2月)
 
 宇野千代先生の自伝
 自伝と申しますとかたくるしいイメージございますが、
そういうものは一切ございません。
随筆風の文章で一章数ページで終わります。
文体は軽やかで読みやすくユーモラス
視点はやや客観的でございます。
 
 この書を手に取りましたのは、
実は宇野千代先生に興味があったからではございません。
 
 きっかけは昔の『太陽』を眺めかえしていたとき、
先生と麻雀仲間だという赤坂の料亭のおかみさんの対談があったと思いなされ。
 
 で、そのおかみさんの話が面白かったので、
もしかすると、そのエピソードも載っておるまいか、と買ってみたのです。
 
(ちなみにそのおかみさんに関しては、
 この書では「泥棒に茹で卵を三つ」という章で紹介されております。
 『ママの話』という題名で書籍化されているみたいでございますが、
 絶版みたいでございますな)
 
 
 
 読んでみるとまぁ面白い。
 類は友を呼ぶと申しますか、宇野先生も同類、
その料亭のママさん以上の方でございました。


 先生の子供時代、明治の周防の国(今の山口県)岩国から話は始まります。
 それがまず異世界ファンタジーよりも異世界
 
 文化が違うのでございますよ。
 異世界ファンタジーなんて所詮、
ファンタジー小説やゲームの共通認識で成り立っているものでございますから、
百年以上の昔はそれ以上に認識の異なる世界なのでございます。
 にもかかわらず現代でも理解できる地続き感がある
 
──そのあたりがいいのでございますよ。
 
 そこから宇野千代先生ご自身に話は移ってまいります。
 
 すごいのはその行動力・決断力──と申しますか、
何かが欠けているような気がいたします。
 札幌から東京へ行き数日の滞在で帰るつもりが、
その最後の日に知り合った尾崎士郎先生と一緒に暮らし始めた
 
などという話は最たるものにございましょう。
 札幌に良人がいるにもかかわらず。
 
 
 その類いの話が、
悲嘆も感傷もなしに次々と出てくるのでございますから、
面白くならないはずございません。
 
 そんなでございますから、
不幸と思える場面にも直面するのでございますが、
不幸を楽しんでしまう性格だそうで、悲劇になりません。
 
 どんな状況でも仕事を見つけてきては、
工夫し新しいことを見つけ出しながら一生懸命それをやる。
 
 その過程が楽しいのだそう。
 
 小説や着物のスキルがあったとはいえ、
その気の持ちようで身を粉にすれば、それらがなくても、
困難を切り抜けることはできそうな気がいたします。
  
 一生懸命やり、工夫し新しいことを見つけ出すのは、
小説も着物のデザインも料理も同じ、
そんなことも確かお書きになっておられました。
 
   
 最後の方には衣食住など生活のことが書かれておりますが、
このお方が長生きだったのもむべなるかなと思いました。
 
 一日1万歩歩く。
 化粧はきっちりとする。
 ごはん・お茶・漬け物は、こだわってちゃんとしたものを自分で作る
  (自分が研究したご飯の炊き方を圧力釜とともに送ったら、
   面倒くさすぎてだれもそのとおりやらなかったそうでございます)。
 どんなときもに自分が幸福だと思い、一生懸命ことにあたる。
 悩まない。
 
 これが自然と身についているというのでございますからな。
 健康でいられるはずでございます。
 
☆ 余談ではございますが、今日本人女性の平均寿命が世界一というのは、
  今高齢の方が、高度成長期以前を生きてきたから
  という気もしないではございません。
 
  電化製品がない時代は、炊事にしろ洗濯にしろ、家事が大変でございます。
  しつけも特に女性には厳しゅうございましたでしょう。
 
  そんな時代を若いとき過ごした方というのは、
  困難にも強く、生きる力もあると思うのでございますよね。
 
  今は、栄養状態はよろしゅうございますし、医療も進んではおりますが……、
どうなのでございましょうねぇ。
 
 
  
 とにかく波瀾万丈の面白いお話。
 近代文学の有名人も普通の姿で出てまいります・
 
 2026年度後期(秋から)のNHK連続テレビ小説「ブラッサム」
宇野千代先生をモデルとしたものになるようでございます。
(このご本もそれで再版(令和7年7月 31版)されたのでございましょう)
 
 ただし、
 
「実在の人物である宇野千代(1897~1996)をモデルとしますが、
 大胆に再構成し、登場人物名や団体名などは一部改称して
 フィクションとして描きます。原作はありません」
 
 とのこと。
 そのままではいろいろと差しさわりがあるのでございましょうな。

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