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2024/11/22 『赤毛のアン』が『アン・シャーリー』というタイトルになって2025年5月。Eテレで放映されるそうでございますな。キャラクターは以前日本アニメーションで製作された『赤毛のアン』をちょっと大人っぽくか、外国人に寄せた感じ。キャラクター原案:近藤喜文となるのかなぁ。基本的な服装などはどうあっても同じ感じになると思うので、あとは高畑勲先生へのリスペクトを表明するかどうかといった話になりましょうな。過去のアニメ作品をリスペクトして作られるってないですよねぇ。しかも小説などが原作としてありつつ。新しくていいと思います。
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大いなる助走『大いなる助走』
筒井康隆:著
(文春文庫/

2005/10)
 
 
『ゼッタイ! 芥川賞宣言~』コメント欄に、
この作品は『大いなる助走』と関係あるのではないか
ということを書いておきました。
 
 とは申せ、『大いなる助走』、
ちゃんと読んだことはございませんでした。
昔、最初の数ページと
牛膝(いのこずち)発言のあたりだけ読んだぐらいでございます。
 
 筒井康隆先生のご本、敬遠していたのでございますよね。
なんか人の心をえぐるようなブラックな作風
というイメージを当時持っていたものでございますから。
 
 それにこのタイトル。いつまでも作家志望で、
そこから上に行けない人たちを描いているに決まっているじゃないですか。
 
 ただ、ですから、勘違いしていた部分もございました。
タイトルから、大学サークルかそれに近い若い世代が、
ブンガクに煩悶し、逡巡し、道を踏み誤る姿を描いた
ような作品だと思っていたのでございます。
 
 そうではございませんでした。
 
 前半の舞台となるのは小都市の地方同人。
そこに集う人々でございますし、
後半は直廾(なおく)賞選考委員を中心とした文学者の方々、
その狂騒を描いた物語なのでございますな。
 
 物語を紹介してまいりましょう。
 
 主人公は市谷京二さん。
 大企業に勤めるこのお方が、
大企業の群狼』という作品を
地方の同人誌「焼畑文芸」に寄せたことから物語は動きはじめます。
 
 この作品、文芸誌「文学海」の目に留まり。紹介される運びとなるのですな。
 
 そうして世に知られることとなった『大企業の群狼』ではございますが、
社内の内幕を暴いた作品でございますから、当然会社の目にも留まります。
 
 市谷さんは、社の相談役だった父親に勘当され、
さらには上手いこと言いくるめられてだまされて辞表も出してしまいます。
 
 狭い地方都市、他に勤めようにも社の暗部を世間に知らしめた人間など、
雇ってくださる奇特なところなどございません。
 
 途方に暮れる彼。そこに蜘蛛の糸のような一筋の光明が飛びこんでまいります。
 なんと、『大企業の群狼』が直廾(なおく)賞候補と挙げられたというのでございます。
 
 編集者によりますれば、この賞を獲らなければ次はない。
ここで市谷さんの作家生活は途絶えてしまうとか。
 
 直廾(なおく)賞選考委員は9人
そのうち半数を抱き込んでしまえば受賞確実と、
市谷さんは編集者さんのサジェストを受け、裏工作にいそしみます。
 
 ところが落選。
行き違いがあったり選考委員がいいかげんだったりしたのでございますな。
 現実なら直木賞を獲れなくても
それ以上に売れた本はザラにあるとは思いますが、
市谷さんの発想にそれはございません。
 
 すべてを失った彼は、すべてを見失って兄宅から散弾銃を持ち出し、
選考委員連続殺人という狂行に及ぶ……、
 そんな感じでございます。


 市谷さんは主人公ではございますが、
その心情を深く掘り下げるのが作品の目的ではございません。。
 むしろ彼は狂言回しと申してよろしゅうございましょう。
 その行動・境遇に応じて
 
 地方同人誌「焼畑文芸」界隈
 市ヶ谷が勤める地方企業大徳産業
 雑誌編集部
 選考委員会の面々
 
 と物語の舞台も変わっていき、そのそれぞれに存在する人々、
俗物たちを描き出すのが作品の主題となっているのでございます。
 
 筒井先生のコメディでございますから、
とにかく出てくる人出てくる人まともではいられません
 
 文芸に対する至極まともな意見を呈する
『群盲』編集者・牛膝(いのこずち)氏の発言も最後は狂騒で終わっております。
  
 そういうところが嫌いという方もおられましょう。
 わたくしも苦手でございます。
 直木賞を取れなかった理由の一つでもうあろうかと存じます。
 
 そうする必要が無いところは無理に暴走させる必要ないのに、
そのほうが作品としてまとまるのに──
とはだれもが思うことだとは思いますので、
それをあえてやるのは、筒井先生の個性として任ずるものであり、
ポリシーなのでございましょうな。
 
(ちなみに、最後の市谷さんの犯行は暴走ではございますが、
 ドタバタではなくハードボイルドな描き方をしております。
 ここまでドタバタですと締まりがないからでございましょう。
 けっこう緊張感ある場面でございます)
 
 初出は昭和52(1977)年
 作品は執筆当時の状況を色濃く反映いたしております。
 
 文壇に権威があり、前衛劇などが話題を呼ぶなど、
小難しい文学や芸術が、まだエラいと言われていた時代出ございますな。
 社会派小説に人気があり、『大企業の群狼』が注目されるというのも、
そういう背景があってのことでございましょう。
一方、SFが活況を帯びるのは1978年の『スターウォーズ』日本公開以降。
 
 まぁ、そんな時代でございます。
 
 登場人物もそういう時代の影響を色濃く受けてございますが、
一皮むけば現代の人物と同じでございます。
 人間観察に優れた作品は、普遍性があるということ手ございますな。
 
 さて。
 話題にしやすいのは後半。
実在の小説家をパロディにした部分でございましょうが、
面白いのは前半、
小文壇とでもいえそうな地方同人誌の様子を描いた部分にございます。
 
 さすが、文体模写が上手い。人物造形も秀逸。
 いかにもな人物が、いかにもな感じで登場いたします。
 
 モデルとなった人物がいたかどうかは存じ上げませんが、
こういう作品や人物に接しする機会が多くあったことは確かでございましょう。
 
 店の金をブンガク活動のために勝手に持ち出す社債の保叉さんや、
職に就かず何人もの女学生をブンガクでたぶらかして
処女を奪ってきた大垣さんなどは
今ならキモオタとかいわれる存在かもしれません。
 
 そういう手合いは昔からいたのでございますな。
 
 特に、ブンガクという理論武装がついておりますから、
そんじょそこいらのキモオタなど束になっても敵いません。
 
 キャラパターンだけの存在とは、重みが違うというものでございます。
 それも、筒井先生の深さによるものでございますが。
 
 
 文庫本の解説は大岡昇平先生。
 これがまた、この作品を的確に捉えた快文でございます。
ただし、作品をちゃんと読まないと伝わってこないかもしれません。
 
 その中でも引用されている ACT 5/SCENE 32 が作品の主題を言い表しておりますな。
 
大いなる助走  
 
 現代ではこのような小難しいブンガクの呪縛は解けたかもしれません。
 しかしなお、形を変えて本質的なところは変わっていないのかもしれません。
 強力に時代性を描くことで普遍的な人間が浮かび上がっているものかと存じます。
 
 
──さて。
 あらためて最初に戻ります。 
 
ゼッタイ! 芥川賞宣言~』との関連についてでございますが、
明らかに影響は受けていると思われます。
 狂騒・暴走の部分は。
 しかし本質的なところはそれほど──。
 文学的な深さは『大いなる助走』にはとうてい
及んでいないように思うのでございます。
 

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