ホルへ・ルイス・ボルヘス マルガリータ・ゲレロ 柳瀬尚紀訳
(1974/12 晶文社)
Jorge Luis Borges and Margarita Guerrero :
EL LIBRO DE LOS SERES IMAGINRIOS(1967)
ボルヘスによる幻獣の辞典(共著)
ア・バオ・ア・クゥー(A Bao A Qu)の名とともに
この書を覚えている方も多いのではないだろうか。
通常のモンスター事典などに採り上げられていない怪物も多く、
また他の事典が、これを資料としている例も多い。
たとえば、RPG系のモンスター事典としては早い時期に書かれた
「RPG幻想事典」には、チョンチョンやカーバンクルが載っているが、
それもこの事典から採られたものだろう。
(参考文献に挙げられている)
特徴としては、ボルヘスがブエノスアイレス生まれということもあって、
南米の幻獣について触れられていること。
西洋のメジャーな神話よりも、
未開社会の民間伝承が好きな私にとって、これはうれしい。
それに、幻想文学の作家だけに、
ふつうモンスター事典では採り上げられないような
形而上の生き物や、
絵として描写不可能なもの、
幻獣とは呼びがたいもの
まで採っているのも、この辞典の独特な点だ。
さきほど、
通常のモンスター事典では採り上げられていない怪物が多い、
と書いたのは、そのためでもある。
ところで、この本には、ザラタンという幻獣がでてくる。
島が実は生き物(亀や鯨)だった、という話なので、
FF24『モンスター誕生』(スティーブ・ジャクソン)の
ザラダン・マーとは関係なさそうだ。
とはいえ、ネーミングのヒントにはなっているのかもしれない。
* ちなみに、ア・バオ・ア・クゥー(A Bao A Qu)は、この書に拠(よ)ると
バートン版の『千夜一夜物語』に出てくる幻獣で、
チトールの勝利の塔に、時の始まり以来すむ生き物。
半透明で、
何者かが勝利の塔の螺旋階段を登り始めると、
そのかかとにピタリとくっついて登っていく。
その内部にやどる光は次第に輝きを増し、
最上階までたどりついた場合、青い光を帯びた完全な形となる。
そこに到達した人間は涅槃に達し、その行為はいかなる影も投じない。
だが、ア・バオ・ア・クゥーがその最上階のテラスに達したのは、ただの一度きりだ。
そうならなかった場合、この幻獣は最初の段に転げ落ち、
ほとんど形のないままに、次の来訪者を待つのだという。
からだ全体でものを見ることができ、触れると桃の皮のよう、ともいわれている。
といった感じだ。
(要約なので、詳しくは『幻獣辞典』を当たっていただきたい)
この記事が『千夜一夜物語』に忠実な記述なのかはわからない。
少々、幻想的・文学的すぎるように思うのだ。
* と思って、少しネット上を調べていたら、こんな記事が。
「愛・蔵太のもう少し調べて書きたい日記」
2007-01-06 ア・バオ・ア・クゥーはどこにいる(どこにある)
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20070106/abao
文学的でっちあげということも大いに考えられる、とのことだ。
ボルヘスらしい。
少なくとも、何らかのアレンジ、もしくは創作が入っているのは確かなようだ。
となると、他でもそれはありそうな気がする。
誰も知らないような幻獣に、少しのスパイスを加えるのだ。
ボルヘスならありうる話だ。